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Tuna



天井から吊るされた綱を奥さんが力強く掴んでいた。
見学した時には、これは使わないだろうねと話していた綱。
小春が寝てから、なかなか陣痛が進まない。
微弱陣痛と言うらしい。
小春の時は、陣痛がとても強かったので
なるべくいきまない様に、力を逃がす様にしていたのに、
今回は力の限り力を入れてがんばってとまったく正反対のやり方だった。
後で聞いた事だが、あの4人体制じゃなかったら、
もっと長時間かかって大変だったらしい。
一人が産道の軌道を確保し、
いきみに合わせて他の二人がTシャツの裾で
赤ちゃんを押し出す手助けをしていた。
これはスーパーテクニックだったらしい。

小春が起きた。
いつもの事ながら「おっぱい」と泣きながらのお目覚め。
こんな非常時でも小春にとっては日常が流れているんだと思った。
でも奥さんにをとにかくお産に集中させなくてはと思い、
あまりに泣き叫ぶので抱っこして連れ出し、少し散歩した。
陣痛中に20分も場を離れるとは思わなかったけれど、
これも小春を立ち会わせるという事なんだと思う。
少し落ち着いたので
「もうすぐ赤ちゃんが出てくるから、戻ろうか」と声をかけ
小春は肩の上でコクッと頷いた。
部屋に戻ると「もうすぐ頭が見えてくるよ!」という状況だった。
小春は少ししたら熱気と雰囲気で、また泣き出してしまった。
お母さんのところに寄り、おっぱいをくわえた。
陣痛の合間にまたおっぱいをくわえるということを
5回くらい繰り返した後、
お母さんが、「小春ごめん」と突き放した。
僕も泣き叫ぶ小春をなんとか押さえながら誕生を待った。
それからまもなく「頭が見えてきたよ」と仲さんの声。
すぐに頭が見えてきた。
顔がこっちを向いているなと思ったと同時に
羊水が噴射して僕ら3人にかかった。
本当は後頭部が見えて産まれてくるのだが
旋回異常といって、正常な方向に回りきる前に産まれてくる事だった。
だから下におりてくるのに苦労してしまったらしい。
産まれた直後に、奥さんが「小春おいで!」と呼び
おっぱいへと導いた。
とても出産という大仕事の直後とは思えないくらい冷静だった。
おっぱいを飲んで落ち着いた小春は、すぐに夏乃の頭をなでていた。

小春は産んだ部屋で4人でいる時に、
「さっき仲さんの手が赤かったねえ。」と言っていた。
なんか夏乃の出産の全てを含んだ言葉だった。